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洛北文字講義

金曜日, 10月 24th, 2008

叡山電鉄出町柳(でまちやなぎ)駅14時32分。始発駅を出発した2両編成のワンマンカーは、全国高校駅伝の難所の跨線橋を抜け山の裾を走り出す。学生の頃までは木目が印象的なかなりレトロな電車だったが、最近はすっかりリニューアルされてワイドビューな電車になっている。モヒカン山と呼ばれていた山はどこに行ってしまったかわからなくなった。京都精華大学前駅。昔は一つ手前の木野という駅で降りていた気がする。

京都精華大学。約16〜7年ぶりに訪れた学校の変わり様に驚きながら、今回の会場「清風館」をさがす。ここの卒業生ではないが、同じ京都にある芸術大学だったので何度か遊びに来た。その時と比べて規模は倍ぐらいになっているようで、全く雰囲気は変わっている。ようやく教室を見つけ中に入るとまだ3人ぐらいしかいない。やがてチャイムが鳴ると100人近い学生が入って来た。明らかによそ者とわかる自分は学生の邪魔にならないように身を屈める。

出張をこの日に近づけ、京都まで足を伸ばしトークショーを聞きに来たのは、他の会場(翌日の大阪と東京でのTDCの講演)では盛り込まれていなかった「コーポレートフォント」についてのプログラムがあったから。それに字游工房社長鳥海さんのお話を聞く機会もいままで無く、どんな話が出るのか期待していた。

なかでも資生堂書体のデジタル化プロジェクトについての話は面白かった。資生堂に入社したデザイナーは手で描けるように資生堂書体を学ぶらしいのだが、それを描ける人が今では二人しか居らず、今後、それらの書き手が引退して行く状況をふまえて、元となる文字をデジタル化して残そうというものだった。脈々と社内に伝わる文字でも、書き手によっては解釈が違うところがあるそうで、字游工房でデジタイズした文字に対して同じ箇所に指摘はあるものの微妙にその内容が異なることがあり、そのどちらを取るのかなど苦労が多かったそうだ。

サントリー制定書体の制作顛末についても語る鳥海さんは本当に大変そうだったが、大きなプロジェクトに関わった喜びのようなものも伺えた。小林さんからは進行しようとしているコーポレート書体の予告なども飛び出し、サントリー制定書体以降ほとんどなかったコーポレート書体がまた動き出しそうな気配だった。この話を聞けただけでも京都に来たかいがあった。

学生と一緒になって、久しぶりに学生に戻った気分を味わった。小林先生からダブルペンシルでの書き方とつくられる文字の形を実習してもらい、高岡先生のコーポレートフォントの講義を聴いた。初めて聞いた鳥海先生のお話は、軽妙でほんわかとした語り口がとてもおもしろい。講義後に開かれた学生さんの作品の個別クリティックを横目で見る。またこのなかから先生方を目指す人が現れるのかなと思いながら、学校を後にして京都駅に向かった。

△京都精華大学のサイン(左)と、ダブルペンシルで描いた文字(右)。